となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

たなばたさま

2010年07月07日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

ささのはさらさら のきばにゆれる お星さまきらきら きんぎん砂子

昭和16年3月に発表された「たなばたさま」である。この年の冬にハワイ真珠湾奇襲攻撃、太平洋戦争が始まる。まさに風雲急を告げるわが国。
世の大人たちはせめて子供たちには子供らしい歌を歌って過ごして欲しいと国を挙げて歌作りに励んだ様子が目に浮かんでくる。長い中国での戦いの泥沼化でアメリカと一線を交える羽目になるかも知れぬと予感していたのではあるまいか。
アメリカから石油の輸入を止められて、やむなく戦いをして生き残りをはからなければならなかったわが国、かどうかは意見の分かれるところだろう。そのアメリカも数年後ベトナム戦争の泥沼化、長期化、終わりなき戦いへと入るのである。

北海道の七夕は8月である。浴衣を着る機会の少ない北海道の夏は本当にあっという間に終わってしまう。夏休みは待ち遠しくて、始まってしまうと指折り数えているうちに終わってしまう。いつもこのさびしい気分と同居の夏休み。
遠くの原っぱから盆踊りの音楽が聞こえてくる。昼間に準備をしている原っぱにさしかかって夜になるのを待ち望んだもんだ。年に一度の浴衣を着て、小さなロウソクに火を入れた提灯を片手に母と連れ立って原っぱに出かける。
原っぱでは近所の人たちが盆踊りの輪を作り踊っている。
♪あー北海名物 数々あれどよーハイハイ♪僕は踊るのが苦手なので遠巻きに見ている。大抵9時ころには終了、ゾロゾロと近所の人と帰り道を急ぐ。提灯の明かりがなければ足元もおぼつかないほど暗かったあのころの夜道。夜が更けるほどに鳥肌が立つほど寒さが増す。早く部屋に戻り、ストーブで暖まろう。今夜はスイカが食えるという。ワーイうれしぃーな。

浴衣の青の格子模様は遠い夏の日の心模様。日本はおろか、世界の広さも何も知らなかった幼いころ。札幌の平岸でもまだまだ藪があちこちにあった。家の回りも藪だらけで昆虫や小鳥がいっぱいいた。花火大会、学校での映画上映、親戚の家に遊びに行き海水浴をする。夏休みのスケジュールが目白押しだ。冬の支度の薪割りも待っている。
横になったらすぐに寝込んで、朝まで一度も起きることなくぐっすりと眠ることができた当たり前の幸せを改めて思い起こさせるたなばたさまよ。
(山木康世)