となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

僕に何か御用ですか?

2010年12月23日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

何とも珍しく穏やかで暖かい12月の夜の町、蕎麦屋でカレーを食し今日は冬至かと思った。昔は家でよくカボチャの煮付けがこの日には出たな。母ちゃんの味付けはニッポンイチ。高知県安芸市からたくさんもらったユズをマーキーのお客さんに、ユズ湯でもどうぞと配ったのはいつだったかな。確か今頃のライブだった、
一年で一番夜が長い日、これからは徐々に昼が長くなると言うわけか。結構なことだな。北海道の冬など4時と言えば真っ暗だ、みんな冬眠前の熊のようにイソイソと家路を急ぐ。寂しい限りだ、まだ4時だぜ。
そんなこんなで食い終えて薄暗い道を帰ろうと自転車置き場へ向かった。後にニュースで、12月に入っての今日の暖かさは50年ぶりということを知る。
細い路地は人と通り過ぎるとき、気をつけなければ肩に当たってしまうほど狭い。

「すみません、僕に何かご用ですか?」
一瞬何か道でも尋ねられたのかと思い、そして何か変な会話だな、そして顔を合わせてしまい、そしておまけに目まで見てしまった。こりゃやばい、普通の目じゃない。
そして「…別に…」と答えていた。
やせ気味逆三角形、風が吹いたら飛ばされそうな鉛筆のような、かなりキチンと身なりの整った学生風、めがねの生気のまるで感じられない薄気味の悪い男に声をかけられ驚く。返事をした後、様子をみるでもなく早々に立ち去った。

マズイ、マズイ、奴はマズイよ。しかし奴は後をつけてくる模様。後ろを見ないように、足早に振り返ることもしないで自転車置き場まで急ぐ。走ったりして奴も追っかけてきたりして、見知らぬ男と夜の徒競走はないっしょ。この間1~2分、角のパチンコ屋の向こうに自転車は置いてある。そいつを曲がって何気なく見るともなく見ると、暗がりの中キラリと、まだついてくる様子。

急いで水色の自転車のキーを指し、遠回りになるが奴の方へは向かわず逆方向へ帰り道、腰を浮かしたままペダルをこいだ。まさか本気で走って追っかけてきたりしてはいないだろうな?

あいつは何なんだ、またどこかででっくわしたらことだな。それにしても何で自分に「ご用ですか?」なんだ、「用事ですか?」だろう。丁寧語の間違った使い方じゃないか。それとも俺、つまり相手に対し丁寧に使っていて間違いではないのか、あー根本が間違っている。俺がお前に何かご用ですか?だろ。お前が先ず「すみませんが?」で俺が「ハイ、何かご用ですか?」だろ、これが正解だぞ。あー何で奴の言葉遣いを検証しながら俺は自転車で暗い夜道を急いでいるのだ。
年末は何かとみんな気ぜわしく、どんな気持ちで過ごしていることやら、クワバラ、クワバラ。頭の中に呪文のようにさっきの「すみません、僕に何かご用ですか?」が駆け巡る。

あれからあの男は、師走の町で何人に声をかけて、今頃自分の部屋で氷のように冷たい表情で鏡に向かって「すみません、僕に何かご用ですか?」なんて独り言言ってニヤニヤしているのだろうか。
あー夜からずっと奴の言動が走馬燈のようにつきまとってくる。あのとき俺の出方次第で事はどんな展開をしたのだろう?手に隠し持っていた果物ナイフで…

昨日は事務所のポストにティッシュにキチンとたたまれくるまれたレジの領収書が5,6枚。誰が何のために?何のメッセージだろう。だいたいがレジの要りもしない領収書を見知らぬヒトンチへ置いてゆくかだ、それもご丁寧に紙に包んで。これも考えたら気味が悪いだろう。私の昨日をお知らせしますってかい。

みなさん人には親切にしましょう。しかし時と場合により触らぬ神に祟り無し、しかし宝くじでも当たんねぇかな、騒がぬ紙に当たり無し、しかし世の中は難しいねぇ。

(山木康世)