となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

馬刀貝

2010年04月04日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

なんと読む?答えはマテガイなのだ。
■マテガイ科の二枚貝。カミソリガイとも。高さ1.6cm,長さ12cm,幅1.2cm。両殻を合わせると円筒形になり,前後両端は密着しない。北海道南部~九州,朝鮮半島,中国北部の内湾の潮間帯の砂底にすみ,30cmほどの深さの穴にもぐってすむ。この穴に食塩を入れると反射的に穴からとび出るので,採取は容易。食用。(「マイペディア」より)

打ち合げの席、この貝の話で盛り上がった。なんでも塩を上から降ると「キャー、何さこのしょっぽさは体に良くないわ、塩分採りすぎよー」「イヤッホー、待ってました、このしょっぱさがたまんないべさー」かどうかは分からないが、取りあえず人間の待ってるところにヒョイとお出ましとなり、砂からつまみ出されて一巻の終わりとなる。

「今度、馬刀貝ライブはいかがでしょうか?」と誘われた。
満月の夜に海辺でみなが塩を片手に一列に並んで馬刀貝を採取する。それを焼いて食してライブを興じるというものだ。
こんな話が打ち上げの席で場を盛り上げる。良いモンだ。こんなことでみなが笑い転げることのできる幸せはお金を払ってでも買いたい。そりゃ馬刀貝にしてみれば迷惑千万、たいがいにしないかい、いんすうぶんかい(意味不明)。
こんな調子で36年間ライブの後始末をしてきた。すぐにホテルに帰って床につくなんてことはできない。夜遅くの高揚感を納めるには、一杯の日本酒(焼酎・ワイン)と酒の肴と話のつまみで最後の塩の一降り。まるで馬刀貝ではないか。

歌を作って歌い人生を過ごすこととは何なのか、用もないときは砂の中に深く息を潜めて生きていて、上から塩を一降りされると天上へ顔を出す。待ってましたー。
「ちょっと待って、出直してくるからー」「馬刀貝(待てない)」それにしても人間の知恵、恐るべし、近寄るべからず。貝の遺言。

大塚搏堂という歌手がいた。容姿からは想像し難いソフトな声でラブソングを歌っていた。札幌に博堂命の歌い手Iがいた。ススキノをホームグランドにギター片手に歌っていた。帰札したときカウンターの片隅で仕事の合間、ひとときの休憩を取っている彼としばし飲んだ。もちろん仕事を終えてからも飲み明かしたこともある。妙に馬が合った。黒松内出身だったので通称「クロマツナイ」だった。どうしているか、今は何をしているか。この前も同じことを思った。

2回目の「博堂村」も誠に盛り上がった。
表を歩いてる人に聞こえるくらい大きな声で歌ってみてください、と言ったらラジオのボリュームが上がるように「風来坊」の大きな歌声と手拍子は窓を飛び出し別府の夜を羽ばたいて行った。
みなさーん、ありがとう、ありがとう。馬刀貝より。
(山木康世)