月が煌々と照っている。
2010年06月08日 | カテゴリー: ミュージック・コラム
俺は親父が二階建ての屋根裏にこさえた秘密の三階へ上がって行き、今夜も手作り望遠鏡で月をのぞいている。八月葉月、暦の上ではすでに秋を迎えておりますがまだまだ北海道だって残暑が続いております。立って歩けないほどの高さしかない。屋根からの釘が時折顔を見せたりしている。
隣近所、番犬、皆が寝静まった深夜を見計らって満月を観測する。満月や新月の2,3日後に起きる大潮の不思議さ。月と地球は密接な関係を持っている。地球誕生以来そうやってきた。まるで男と女の関係だ。一部の地球人は月も、まして宇宙も意識しないで我が物顔で暮らしている。月がくしゃみをすれば、それこそ天変地異なのであるのに無関心である。あったとしても恋人と空を見上げてロマンチックになるくらいだろう。
俺がのぞいている長さ1メートルほどの紙製の望遠鏡は通販で買い入れて自作したものだ。自作したと言ってもキットの類である。白い厚紙の大小の筒が2本、レンズが2個。それを組み立てるだけである。如何ほどしたものか全く記憶にない。
梁に半ば隠すように置いてあった望遠鏡を小窓にセットする。観音開きの小窓を静かに開ける。今夜は格別に快晴の夜空である。小窓から突き出された望遠鏡は何を発見するか。恐ろしく月の表面が輝いている。精度はそれほどではないが、倍率が大きいので手に取るように見えている。どこらあたりにアメリカ人は降り立ったのか。去年、宇宙飛行士がハッチを開けてソロリソロリと階段の手すりを捕まえて降り立った。そして「私にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」と言ったとか言わなかったとか。それも確認できるほどの大きさに月の表面のクレーターが無数、丸い筒の中に見えている。
UFOは存在するのか。宇宙は無限のようで有限だと分かるようなもっともらしいほど広大無辺な話なので存在はするだろう。しかしそれが人間が考えつくような宇宙船や異星人とは限らない。月の裏側に秘密基地が存在して、そこから彼らは飛来する。ありそうな話である。ジッと月の縁を観察していれば、そのうち光る物体が次から次へと編隊を組んで地球にやってくる。俺はそれをジッと観察している。みんな寝静まっているので起こしては気の毒だ。明日があるのだから。しかし時折、地球の雲が筒にかかるくらいで何の変化も見られない。徐々に目があまりの光の強さに疲れてくる。
東の空が白み始める。今夜の秘密観測はこれにて終了。俺は物音を立てないように静かに三階から二階へ。どこかで見た光景だ。そうだアメリカ人宇宙飛行士もこんな感じで降りて第一歩を記したのだ。無事二階に帰還。地球にご帰還とは話にならないほど小さな帰還であるが自分だけの収穫を胸に秘めて自室のドアを開けた。さぁ明日は「夕暮れの町」本選会だ、全力を尽くすのみ。22歳の夏は「夕暮れの町」一色だったが、しばしの息抜きに見た月の魔力に今でも雁字搦(がんじがら)めだ。
オレンジ色の空の下 帰る君を乗せたバスが見える
千切れた雲の切れ間から お月様が寝ぼけまなこでのぞいてる
次回は「夕暮れの町」について記そう。
(山木康世)