となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

男爵さん

2010年03月27日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

「男爵」はラーメンもやっているドライブイン。
「じゃがいもさんですか?味噌ラーメン3つ、今から行くから作っておいて」
僕らは車で2分ほどの店へ本番40分前に出かけた。入ると中央の天井にはシャンデリアが、バーカウンターにはウイスキーやワインが並び、グラスが吊されている。コーヒーも書いてある。壁には落語家や演歌歌手の色紙が5枚ほど貼ってある。表の風景をザックリ取り除けば、ススキノの立派なバーとも見受けられる。しかし車で立ち寄ってウイスキーはないだろう。
「電話を受けて、はい男爵です、と言ったら、じゃがいもさんですか?と聞かれたので、男爵いもがあるのでそのこととかけていってるんだなと思ってはいと答えたんですよ」。おかしそうにパーマをきつくかけた60前後の店の看板娘は笑いながら店に入っていった僕らに話した。
kは小雪のちらつく楽屋入り口の外で電話で注文していた。その会話を看板娘は説明してくれたのだ。

待つこと3分。電話をしておいた甲斐があって、迅速に誠にうまい味噌ラーメンが出てきた。野菜、麺がたっぷりの本格味噌ラーメンは10分で完食した。実に尾を引かない後味スッキリのしつこくない味噌ラーメン。
ラーメン戦争で全国何かと話題になるのはこってり系が多い。若い頃ならいざ知らずたまにはニンニクの効いていず油面がギラギラ浮いていないラーメンが食いたいときもある。スキー場でのラーメンは実にカレーと並んでうまい。かなりの重労働の滑った後の素っ気のないラーメンは寒さも手伝ってうまいのである。

あてもない見ず知らずの客の電話をまともに受けて作り始めるラーメン店主の心意気。両者の間に、ここには信頼関係そのものしかない。都会では考えられない店と客との信頼関係だ。出前ならラーメン屋が電話を受けた注文を作って馳せ参じるのだが、これは客が注文後、店へ馳せ参じるので、一見通常の入店の様に見えるが、すでに注文済みを食いに入るのである。これは出前ならぬ入後。
「男爵よりじゃがいもさんの方が名前良いかもしれないね」
「ありそうでないじゃがいもさん。ポテト何とかならありそうだがないかもね」
そんなこんなをステージで1時間後話したら、受けたこと受けたこと。僕もホールのみんなも喜んでいた。幸せが舞い降りた瞬間だ。

因みに男爵を紐解くと
・五等爵(公・侯・伯・子・男)の第5。
・ジャガイモの主要な一品種。名は、明治末年アメリカから導入・栽培した川田男爵に因む。男爵薯。
とある。
札幌から2時間、京極の町にはまだ人と人との信頼で成り立っている本来の社会の姿が生き生きと生きている。
そんなところで食う味噌ラーメンは全国一だ。

(山木康世)