となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

瞬間接着剤

2010年04月12日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

ギターを弾くとき、昔はサムピック(親指にはめて使うピック)とピックを用いていた。今はほとんど使わない。ふきのとう時代には、特にバンドが付くときはアコースティックギターの音色を要求されていなかったようなのであまり気を遣って一音一音弾いていなかった。内蔵マイクが開発されるまで、いつもハウリングでPAは泣かされていた。そのせいもあってかあまりギターの音に関して注文などもつけなかった。

大ホールでバックバンドとアコースティックギターがうまくレコードのように解け合って聞こえてくることは希である。その昔ジェームス・テイラーのコンサートに行き、ほとんど聞こえてこないアコースティックギターに不満を覚えた。しかし自分もその立場に立ったとき同じような感じで演奏していたのだからいい加減である。

今はギター1本で2時間半ライブをやるので、かなりナイーブに力を入れて演奏している。ギブソンはビブラートがかけやすいので余韻を出したいときにかけている。こんなことは昔考えてもみなかった。ピックを使わない分、指の生爪に関してはかなり神経質に管理している。特に冬場の乾燥季はちょっとしたことで爪が割れたり欠けたりのトラブルが発生する。車のドアを開ける際、不用意に力を入れすぎて何度折ったり割ったり欠けたりしたことか。そのときがたまたまライブの日だったりすると、やる気をなくしてしまい、落胆は相当なものがある。爪があるかないかで音が俄然違ってきてライブそのものにもかなり影響が出る。親指ならまだ良いが、他の爪が欠けたりするとほんとに泣きたくなる。いつも1ミリ弱ほどの長さを保っている。そこでこの思わぬ欠損をしないように欠かせないのが瞬間接着剤である。

青いキャップの「ボンドアロンアルファEX」が好みである。このボンドを指先5ミリほどに薄く塗る。乾いたらまた塗る。こうして保っている。このボンドを使うようになったのは7年ほど前からである。知り合いなどはピンポン球を指に合わせて切って、それを貼り付けている御仁もいる。知らない人が見ると真っ白い爪は奇妙である。病気の爪に見えなくもない。テレビで昔見たのだが、クラシックギターの演奏者の中には他人の生爪をキープしている御仁もいるという。いかにも堅くていけそうな足親指爪の人を見つけると相談してキープするのである。どこでどうやって見つけるのか分からないが相当な努力がいるな。伸ばしてもらったところでちょん切って、それを貼り付けて使うというわけだ。こうなるとギターを弾くにも、他人の力を借りなければ弾けないという構図である。他人の足親指爪を用いて「禁じられた遊び」何ともすごい演奏会になってきた。
今ではライブのない日にも常時ボンドを塗って管理している。

先ほど不満を感じたというジェーム・ステイラーがキャロル・キングと4月14日来日、共演をする。2回目のコンサートであるが、どんな歌を歌いどんなギターを使いどんな音を聞かせてくれるか今から楽しみである。「どんな」が3度も出てくるとやぼったくなる。「ドナ・ドナ」はフォークソングの古典名曲。妄想の思考回路になってきたので終わり。
(山木康世)