となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

ギター四方山話箱乃巻

2010年04月17日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

僕が初めて高校へギターを持って行った朝のことを覚えている。
学友のUにお願いして皆が登校してくる前に教室で手ほどきをしてくれと頼んだ。Uは快く引き受けてくれて1時間か30分か忘れたが、かなり早く登校することにした。いつものバスよりもずっと早いバスに乗る。
僕の持って行ったギターは父の兄の娘さん、つまり従兄弟が使っていたギターを借りて持って行った。しかしこのギターが問題であった。今ではジャズギターとして胸を張って笑顔で持って行けるのだが、その頃のあこがれは何せフォークギターである。どうも具合が悪い。真ん中に丸い穴が開いていないのだ。穴と言うよりf字型の穴が2個あいていた。バイオリンのような感じだ。これが恥じらいを覚えて人前で弾くのに緊張した。それでなくてもまだまだ初心者。色も焦げ茶色で、僕のあこがれの白木色をしていない。黒いピックガードも付いていない。音も何となく歯切れが悪い。最後の決定的とどめは、関西の漫才師「かし○し娘」が持っているギターと同じ。これが自分のあこがれと大いにかけ離れていた。このことに輪をかけてビニールの格子のビニールケースが男子高校生の持つものとしては恥ずかしかったという訳だ。

やがてそのギターを返して、大学生になってバイトをして自分で初めてフォークギターを買った。しかしケースは今度はビニールではないが、紙製の箱形ケースであった。中身は良いのだが、このケースはかにも弱々しく踏んづけたら中身までグシャリといきそうなほど頼りない。これを持ち歩くと肩身が狭い思いをしたものだ。早くハードケースに入れて持ち歩きたいものだ。
ちなみに親にギターを買ってもらったことはない。まぁギターに限らず、兄弟の多い子供は親がそこまで手が回らず、お下がりをよく使ったものであまり新品を買ってもらったということはないだろう。それで何も親を恨んだこともない。授業料、給食代を払ってもらえるだけでも感謝しているのだ。

やがてジャンボを買った。そのときはさすがに初めてハードケースを買い求めた。純正品ではなくちょうどギターに合うようなものを探して購入した。安くても立派なハードケースだった。
ススキノ「うたごえ」でバイトを始めて、しばらくして大学のクラブの同僚がマーチンを買った。そして灰色の独特の純正ハードケースとともに店に持ってきた。このケースは二階から落としても壊れないという頑丈さが売り物だった。ならば実際に落としてみようと店の二階に上がり木の床に落とした。噂通り筋金入りのアメリカ製マーチンケースは何事もなく凛としていた。
23歳で上京して、しばらくはアマチュアの頃買ったジャンボギターでステージをしていた。そして待望のマーチンを選んで良いということで10台ほどのマーチンから一台を選んだ。それは今でも現役である。そしてあの灰色のケース付きである。しかしこのケースは好きではなかった。黒のジャンボのケースを入れ替えて使っていた。

時代は新素材が出てきている。そんな軽くて頑丈で肩から担げるケースが現れないかと見ているが、相変わらず昔のままの感じがする。誰か作ってくれー。
今はあまりケースに関心はなく無頓着になってしまった。ただ軽くて移動の際、楽なものが一番。頑丈さも大事だが、そのためにY社製のような重たいものは敬遠している。肩から担げる布製ハードケースがお気に入りでこの十数年はこのケースを使っている。
長きにわたり時と場合により使い分けてきたという訳だ。ケースだけにケースバイケースなんてね。お後がよろしいようで。
(山木康世)