となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

夕暮れのビール

2010年07月23日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

アルコールは健康のバロメーターになる。まずくてすぐに酔いが回るようなときは、何かしら身体が疲れている。早々に切り上げ引き上げるべし。
飲む時間帯によってもアルコールの効能は変ってくる。夕暮れに、それも外が望める場所での飲酒は何とも言えぬ心地よさがある。種類としてはビールが程よい。いきなり日本酒は見栄えも悪いし、効き目もありすぎ。ここはぐっと喉越しを楽しもう。それでも飲みすぎると何でも一緒だ。
話の合う友人との飲酒は何物にも換えがたい。時間を忘れて話に花が咲く。こんなときの夕暮れ時は本当に心地よい。風も穏やかで通りすぎる人も楽しげに見えてくる。互いが互いを気遣い、距離を少し置き言葉のキャッチボールをする。そしていつの間にか終電の時間になってしまい、別れのときが来る。しばしまた会いましょう、御機嫌用。

電話が来る。
「ただいま名古屋におります、もう新幹線もないので鈍行で戻ります」
ミスターTは浜松の人。どうしたものかと思っていたら、乗り過ごし。
そんな自分も吉祥寺まで連れてゆかれ先ほど中野に戻ってきた次第。
JRに乗り過ごす賃を儲けさせるほど今宵は飲んでしまった。分かっちゃいるけど止められない、船を漕ぎ漕ぎの電車移動の恐るべし瞬間移動。窓の外の駅名を見て、車内放送の駅名を聞いて乗り過ごしに気がついたときの一匹の迷える子羊の放心状態、狼狽振りを何に例えよう。
達人になると何度も何度も往復する。こうなるともう手がつけられない。電車睡眠に執りつかれた移動の旅人はまさに過去と未来を行ったり来たり、いい加減にしないとどこに自分が行くのかさえ定かではなくなる。
ここはどこ、私は誰?

あぁー哀しいほどに、夕暮れのビールは金を払ってでも買いたくなるほどの美味さである。
(山木康世)