となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

野洲森熊音始末記

2010年09月25日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

「ヤス、ヤス」母が呼んでいる。「ヤス、ヤス」姉も、兄も呼んでいる。「ヤス」父が呼んでいる。幼きころより呼ばれし通称「ヤス」は今夜滋賀県の「野洲」(やす)に登場でございます。
大阪は江坂を11時に発って急ぐ必要がなかったので、国道1号線を走って野洲市へ行くことにした。高速に乗ってしまえば1時間ほどで着くと言うから下を走って2時間半を予想した。ところがドッコイショ、ショはいらない。近頃周りでヨッコラショ、ドッコイショ、ヨイショなどという訳の分からないかけ声とともに腰を上げたり、ものを持ち上げたりする輩が増え続けている。これはいけない、こんな呪文を唱えるから年齢が忍び足で忍び込んでくるのである。この際止めにしよう。

11時に発ったが16時を回っていた野洲入り。京都で龍馬ゆかりの寺田屋などを見ようなどと思ったりしたが、次回持ち越しということに落ち着いた。大阪を発ってすぐに渋滞に巻き込まれる。京都で何とかなるだろうと思いきや、国道1号線は週末と言うことも重なってトラックが多く走って混雑状態、やはりニッポン列島ど真ん中、関西は活気がある。
そんなこんなで「森の熊さん」に着くや否や慌ただしく音合わせを済ませる。今までの経験上、音合わせがスムーズなときは本番が良くない。なぜか知らないがそんなことが多い。逆に芳しくないとき本番がすばらしかったりする。当てにならないリハーサル、人生に似ていなくもない。気が緩むのか本番は多少波乱含みの方が良いのである。気合い一発というやつである。

お店の黒と白、赤と白のビニール製椅子が愛嬌があって良い。これが高じて穴蔵的発想のお店になると御殿場のライブハウス「リンコロ」になるなと一人合点した。どうしているやらリンコロ。
明日は安宅の勧進帳である。練習ではない。決して演習ではない。何度も言うとそのように聞こえてくるから不思議だ。「弁慶と義経勧進帳の編」はかなり良い出来で終えることができた。突然リズムがなくなり自由プレイ、アドリブの世界を彷徨った。大成功である。一見出鱈目のように聞こえるかもしれないが、演奏者の脳裏には先行してあーしよう、こーしよーと言う時間差プレイをしているのである。まさに弁慶が富樫に見破られて、去来する不安、焦燥感、などをギターとスライドで波状攻撃する。聞き手にどのような波が伝わるか。果たしてどのような場面が脳に刻まれて行くか。こんな至福の時間はないのだ。思いっきりギブソンを押したり引いたり弾きまくる。45年でここまでやって参りましたというところ。ドッコイショも、ヨイショも、ヨッコラショもそこにはない。イケイケのみである。夢のような森の熊さんショータイムは過ぎて行きました。
みなさんありがとうの一言でございます。またお目にかかりまショー。
(山木康世)