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山形綿通音始末記

2010年10月10日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

山形はおじいちゃんの故郷。写真でしか知らないおじいちゃん。おじいちゃんも僕が生まれたことを知らない。山形は高畠町で明治元年11月22日に生まれて35歳で北海道は札幌に渡った。ちなみに父は大正2年7月22日生まれだった。ここにもラッキーナンバー「22」が見え隠れする。連れ添いのおばあちゃんは赤湯で生まれた人だった。おばあちゃんは明治10年10月10日生まれ。もちろん今は生きていないが、僕が大学生のころ95歳で大往生した。故に僕の中に流れる血の4分の一は山形ということになる。

あいにくの小雨模様の中、東北道は土曜日と言うこともあり東名高速道のような混雑ぶり。5時間半をかけて山形に到着。「コットンストリート」は高速を降りて真っ直ぐ南下、1,5キロほどで警察署を右に入りすぐ左手に見えてきた。大きなビヤホールのような感じのお店でやる気ムンムンである。あの未消化、福岡ライブの借りを返すべくはギブソン、マーチン、ドブロのそろい踏みで臨んだ。直前に地元の山がっちゃんは急遽ステージを制作、50代歳最後の晴れ舞台を少しでも映えるように、栄えるように、生えるようにと用意してくれた心遣いに涙が出てくる。

楽屋に20年ぶりに一組のご夫婦が訪ねてきた。なつかしの再会である。思いもしなかった訪問者に心が躍った。実におかしいほど踊ってしまった。みんな若かったな、しっかり覚えているよ。全国を回った君はすっかり成人になった2児の父親になっていた。あのころ銀行の窓口でキャピキャピして光っていた連れのご婦人は20キロほども痩せられて良い大人になっていた。こうしてつながっていることが真実にうれしい。あっという間に時間が過ぎて開演である。話は尽きない。

「羊飼いの恋」が開演の合図を告げる中、階段をトントンと下りて行く。大分の「ブリックブロック」を思い出す。彼の店を一回りも二回りも大きくしたような良い空間を下りて行く。札幌のビヤホールにも似ている。
ギター一本の弾き語りをするには非常に手頃な大きさである。大き過ぎでもなく、小さ過ぎでもなく。場所や環境によって心は変わってくる。当然そこで繰り広げられる音楽も変わってくる。
今夜は50代最後の演奏会にふさわしい夜となった。大勢のお客さんを前に、自然体で締めくくる。いろいろのパターンの「100%自産自消」今夜の出で立ちは、背中に見事なギブソンの刺繍のカントリーシャツ、我が朋友佐々木幸男の還暦祝いに作成したという真っ赤なTシャツを中に着込んでのご機嫌な登場であった。

ここ山形の地にも山口、北海道、東京から馳せ参じてくれた我が心優しき理解のある応援し隊が後片付けを手伝ってくれている。誰が言い出すわけでもなく、自然の空気の場を読んでみなが行動している。父の教えの一つであった。人に言われてやるのは簡単であるが、悔しい場面もある。しかし自ずから率先して出た行いに悔いはない、責任は自らにある。子供でもあるまいに、立派な大人の一つの規範でもあるような気がする。それを父は無言で教えてくれた。少々やっかいであるが、空気を、場を読むことの大切さというところか。
少し拡大して同じように国にまで広げると更に、大人の国の規範も見えてくる。日本は果たして大人の国であろうか?
まぁそんなことはさておいて山形の夜はシンシンと更けていった。外は相変わらずの雨模様、明日の芋煮会は大丈夫だろうか。

明けて10日、おばあちゃんのお誕生日、ホテルのカーテンを開けると、何と曇り空の中、稜線近くに青空が見え始めているではないか。紋別のガリンコ号の朝を思い出す。何とか持ちそうだな。この晴れは全国各地に展開する我が祈祷隊各位のおかげでもあるが、晴れ男、面目躍如、昨夜の晴れ舞台準備、心遣いへの恩返しである。お天気の神様は存在する。

太古の昔からみんな空を見上げて生きてきた。朝起きたらみんな空を見上げてきた。晴れか曇りか雨か雪かで大きく変わってしまう地球に生きる生物のか弱さ、心細さ。まるでおカイコさんの繭のようだ。蒙古軍が九州に攻めてきたとき台風に遭って引き返していった。それを神風と称した時の人たち。そして神風は特攻として名を変えて登場した。しかし蒙古軍の時と同じようにはならなかった。悔しいが神様は正義に味方したのであろう。あの頃の国の正義か否かは、互いに五十歩百歩であったこととして承知の上である。

山形はおじいちゃんの故郷

山々の裾野に広がるハウス 
キラキラ光ってるサクランボ畑
山形はおじいちゃんが 生まれ育った故郷
明治元年11月の 山形はどんな秋だった

35歳で海を渡って 北の北海道へ移り住んだ
山形はおじいちゃんが 生まれ育った故郷
遠く札幌の地で山々を見て 故郷を思っただろうか

写真でしか知らない駒吉おじいちゃん おじいちゃんも僕を知らない
山形はおじいちゃんが 生まれ育った故郷
昔々の話を聞かせて 山形はどんな町だった

山々の裾野に広がるハウス 
キラキラ光ってるサクランボ畑

(山木康世)