となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

福音の銀貨

2010年02月09日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

 青森の町中を海水が流れている。
よく見ると道路の中央に小さな丸い吹き出し口があり、そこから水がチョロチョロと流れ出ている。降り積もる雪を海水で溶かすという訳だ。その海水は車を傷めるのではと心配もした。
 さらによく見ると、とある一カ所から銀貨が噴水のようにあふれ出ているではないか。夜なので車はあまり通っていなかったが、周りに気づかれないように中央で拾い集めた。それでも集めきれないほど吹き出し続けている。
 そうか、沈没した船の金庫から漂着した銀貨か。難破船からの福音。海賊船からの福音。ウニ、タコ、イカ、鯖、カレイ、マグロ。海からの福音。
 あー拾いきれない。ホテルに戻ってバックを持ってこよう。
 大きな黒いバックを持って急ぎ足で戻ると大勢の人が我先にと拾い集めているんでないかい。そしてあっという間に蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。後には一枚も残っていない。歩道に戻ろうと踵を返すと、一枚の汚れた銀貨が足下に。拾おうと腰をかがめた。首を右にひねって車道を見ると海水が洪水のように襲ってきた。わぁー、やばい!
 翌日、ホテルの隣の100円ショップで爪切りを買い求めた。右手の爪もヤスリで整えたから今日の二戸の成功は間違いなし。
 春がゆっくりゆっくりとユーラシア大陸から近づいてくる予感の青森の冬。

(山木康世)