となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

カンカン帽と恰幅の良い野良猫

2010年06月10日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

カンカン帽が若い女子に受けているらしく、この夏は大流行するらしい。。製作現場の驚きの声をテレビで見た。昨年は0個だったのに今年は1万個を超えたという。
大正時代に世界的に流行ったらしく日本でも大流行して、当時の写真を見ると猫も杓子もカンカン帽を被っている。
♪浴衣の君は ススキのカンカン帽♪

宮崎県にOという町がある。この町出身の名政治家小村寿太郎の身長は156センチだったという。小柄な小村が海外へ出かけていって世界の要人に会う。そんなとき彼は山高帽を被って会見していた。山高帽は背を高く見せるための道具だったのではないか。少しでも大きく見せて相手から舐められないように努めたのではないだろうか。彼は病がちで何度も死ぬ目を見ている。しかしその病弱の裏に秘めたる情熱で日本のことを人一倍考えて、ロシアを初めとする戦々恐々と隙あらば付け入ろうとする外国と丁々発止渡り合って条約を決めていったのだろう。

O町のおみやげ物屋で揚げているのがO天という美味な練り物である。実演販売中で慣れた手つきで揚げている白衣の女性に見入る。入り口を見るとさっきから野良猫が顔を出して店内に入りたがっている。一人の店の女性が片手でシッシッと追い払う。かわいそうに、追い払うことはないだろうに。しかし店としては売り上げ一番である。野良猫は可愛いが売り上げにつながらない。じゃまという物だ。そんなところかと思いながら、作業風景にも飽いて日だまりの表に出た。

さっきの恰幅のいい野良の三毛猫が親しくよってきて足下でじゃれつく。悪い気はしない。顔は決して愛らしくない。腹でも空いているのか甘えた声で鳴きながら離れようとしない。俺も腹が空いたが買ったばかりの揚げたてのO天でもくれてやるか、と思ったが買っていないのであげられない。しゃがんで首や腹をさすってやる。そうかそうか、腹が空いてんだな。かわいそうにな。

しばらくすると黒い服を着た中年の女性が店から出てきた。猫は俺から離れ急いでそちらの客の方へよっていった。様子を見ていると女性は買ったばかりのO天を気前よく猫にあげている。自分はというと、食べる気配がない。猫は一心不乱に食らいつく。俺のことなんか眼中にない。
やがて分かってきた事実があった。ここの店の一番のお得意さんはこの猫であったのだ。道理で野良の割に恰幅が良かったのだ。シッシッと邪険そうに追い払われたのではなくて、「今お客さんが買い終わるから表で待ってなさい。この男性は見ているだけで買わないから期待するんでないよ」とやっていたのだ。すべてが日だまりの中、明白になった。

♪あの娘かわいや カンカン娘♪
青春時代の父母たちが、孤軍奮闘の小村寿太郎がモノクロームでスローモーション。 
(山木康世)