ライブが町にやってきた1
2010年06月20日 | カテゴリー: ミュージック・コラム
時は西暦2040年、北関東山間の町。時代はデジタルの進化で生でコンサートや演劇を見ることが滅多になくなった。もっぱら立体画像によるパソコンコンサートで済ませる時代になっていた。ライブを観るのは本当に久しぶりである。市民会館も蜘蛛の巣状態で眠っていて、みんな今日の日を待ちわびていた。みんなと言っても昭和を青春で過ごした、じいちゃん、ばぁちゃんのみんなである。
時間は7時。なにやらロビーは男女の年寄りでいっぱいである。みんな同じような格好をしている。上下のジャージ姿に男はキャップ、女はスカーフを巻いている。時間はというと7時を回ったばかりである。夜ではなく朝の7時である。額にはうっすらと汗をかいている。これから好きなミュージシャンのコンサートが行われる、市民会館に聴きに来ているのだ。皆の若い頃のアイドルグループが復活をしたのだ。実に50年ぶりと言うから恐るべし長寿国。平均年齢80歳。誰がってかい、お客さんじゃないよ、グループの4人の年齢だ。
ワーイッ、ライブが町にやってきた!
お客さんは朝の4時頃からすでに起きているらしい。新聞が届く前に起きていて郵便受けの前で待っているとも聞く。新聞を読み終えると公園のグランドに集まってラジオ体操をするのが日課。ラジオ体操のメロディーも昔流行った第一体操とかじゃない、その昔のアイドルのヒット曲だ。なんともオリジナルな踊りのような体操が今、密かなブームと聞く。
そしていったん我が家に帰って軽い朝食をとってから市民会館へかけつけたのだ。
「今日はどんな歌をやるのかね?デビュー曲はもちろん、ヒット曲を聴きたいモンだ」
「他の地区での演奏では何でも最近のオリジナルをやったそうで不評を買ったそうじゃ。この年になってオリジナルなんてこっちにとっては関心がない。なんでも仏像の歌や、神様の住まいとか永遠の故人とか黄泉の国へご案内なんて歌もあるそうじゃ」
「いやだね、そんな年寄りじみた暗い歌じゃなく、もっと明るい老後の歌を聴きたいモンだね。不老不死の歌とか夢見る老人とか聴きたいね」
みなはゾロゾロ会館の中へ入って行った。やがて開演のベルが鳴る。
(山木康世)