となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

ライブが町にやってきた2

2010年06月21日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

「みなさーん。おはようーございます。しぶジジ隊です。お元気ですか?今朝も我々の往年の歌でお目覚めいかがですか?それでは1曲目、100%SOSかもね、をお送りします、あっやばい、大きな口を開けたら入れ歯が落ちてしまいました」中心的存在のじじいはかがんで拾い上げて、口に戻そうとした拍子に前へつんのめりをして一回転した。「キャーァ」黄色ではな黄土色の嬌声が場内に響き上がった。しかし大事には至らず、幕の袖で控えている医師は胸をなで下ろした。

「やっぱりやってくれたね、合掌合掌」両手を挟んでお祈りしている老人が大勢いる。特に女性が多い。中には「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ」と一緒になって歌っている人もいる。

やがて1部が終わって休憩である。みなはロビーへ。薬を飲んだり、膏薬を貼り替えたり、もちろんトイレに駆け込む人も大勢いる。すっかりくつろいで長いすで眠っている人もいる。どういう訳か半分は帰ってしまった。中身が良い悪いの問題ではなく、集中力の欠如、もう1時間も聞けば満足のお年頃なのである。これから畑仕事をちょっとして昼飯を食って昼寝をして、午後からはまた違うアイドルのコンサートに出かける人もいる。もちろん楽しみな病院ロビー井戸端会議に出かける人もいる。

会館では半分に減ったお客さんを前に「それでは最後の歌、真夜中を突っ走れ、聞いてください」どこまでもアイドルはアイドルだ。ステージで振り付けもよろしく、足並みのそろわぬダンスを演じて終演となった。幕の下りたステージ上では出演者が皆ゼイゼイ言わせて座り込んでいる。やがて車いすが現れて楽屋へと移動。アンコールなどと言う時間外勤務を促す客もおらず、すでに飽きて途中で居眠り、帰る客、会館は興奮のるつぼにはならず、まさに押し寄せた波が引けるように一気に冷めてゾロゾロと口々に呪文を唱える帰りのお客をはき出した。表に出るとまた今日一日が熱くなりそうな予感の太陽がギラギラと中天にかかろうとしていた。

じいちゃん、ばぁちゃんたちはあんなに早く起きて、コンサートも見終えたというのに、ブログがこんなに遅くなって申し訳ないっす。

ライブとかけて楽天の好きなピッチャーの試合と説く
その心は「幕(マーくん)が上がって始まり、降りて終わりとなる」寝ずっちでした。
END

(山木康世)