となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

涼風に吹かれながら

2010年06月23日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

涼風に吹かれながらアイスクリームのコーンをかじっていた。6月の一時の梅雨の晴れ間、まことに涼しい風が吹いてくる。途切れなく吹いてくる。いい感じだ。天井付き広場の小さな丸テーブルには俺の他に向かいに若い男女が二人座っていた。
さっき写してきたデジタル画像を見る。なかなか良い風景が撮れた。こんなところにこんなタワーが建っていて、もう少し空が晴れていたら富士も眺めることができた。しかし俺の写真技術も腕を上げたモンだ。今は亡き大川師匠に写真のイロハを願い出てから30年。新宿東口のさくらやで一通りのものを揃えて、二人でそのまま夕方のキリンビヤホールへ。初めて一眼レフペンタックスで撮った写真が残っている。師匠も満足そうな顔をしていた。あれからどれほど写したことだろう。旅の先々で写しに写しまくったアナログ写真の記憶。
そんなことを思いながらデジタルを繰っていたら声をかけられた。
「スミマセン、一枚良いですか?」見ると向かいの年の頃20才ほどの典型的な今風多少乱れて派手なアベックが明るく、男の方がカメラを渡し「ここ押すだけで良いです」「良いよ、良いよ、ハイ笑ってね」カシャ。「今度は少しアップ目で撮るよ」カシャ。「今のは笑っていなかったな、もう一枚アップ目で、もっと二人寄りで笑ってな…」カシャ「アリガトーございました」黄色い髪をした男が満面の笑みで、隣の多少化粧のきつい女も笑って頭を下げた。「良い写真撮れたと思うよ」「暑中見舞いに使おうよ」「そうだな、良い、良いアッハッハー、アリガトーございました」
俺はさっき抱いた二人のあまり感じの良くないイメージが違っていたので、二人に無言で詫びた。勉強になったと思った。こんな写真一つで、見知らぬ人との会話で心が軽くなって目先が少し明るくなった。今の若い奴らも、俺の若い頃とそれほど変わらないな。俺にも子供がいたらあんな感じなのかもしれないな、と思い「それじゃーね」アイスクリームの紙を片付け、丸テーブルを立ち去った。まだ写真を見ながら二人で盛り上がっている声が聞こえてくる。「サイコーだよ、アッハッハーァァァ」
俺もサイコーさ!
(山木康世)