となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

迷える子羊たちへ

2010年06月29日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

あんなに昔はお互い磁石のように吸い付きあっていたのに、いつの間にか月日という魔法にかかって力が弱くなってしまって、今にも吸い付く力をなくして遠ざかってしまうかのような二人。
しかし、まだ今なら間に合う。映画に出てくるアメリカ人のように激しく罵りあったり、抱き合ったり、人前でキスなど出来ない僕らはほんの些細な感謝の言葉さえ口に出して言うことをはばかってしまった。何も二人が悪いんじゃない。そういう国民性だからとやかく他から言われる筋合いではない。
しかし人目をはばからず、もう少し自分の気持ちを素直に正直に君に言えたらということが何度もあった。この期に及んで何をしているのだ、と心の内の声が聞こえてきたこともしばし。しかし僕は僕の流儀でここまで来た。君も僕以上に相当な頑固な人間だと言うことを知っているのでおあいこだ。
霧がいつの間にか僕らの目の前に漂い初め、周りの山々の風景や、木立さえも、空の色も雲もかき消して突然世の中から孤立させられたような二人。車内から見えるはずの車線の白もかすんで見えにくい。大丈夫だろうか、突然対向車が現れて衝突事故など起こしかねない状況だ。風も吹いていない。雨も降っていない。雪も降っていない。霧だけが不安げに僕らの周りにまとわりついている。孤独な心が今にも泣き出しそうだ。

そうだ音楽を聴こう。こんな時は頭の切り替えが大事だ。自分の気持ち次第で同じ状況でも違った状況に見えたりすることもある。がんじがらめの最大の敵は己自身の心にあった。何かにとらわれて行き場を失っていた自分の心。流れてきたのは「君に感謝する」
君の心は確かに僕の言葉を待っていたようだ。そっと君の右手が伸びてきて、僕のハンドルを握る左手に触れた。あったかい!君の全身に流れる真っ赤な血が肌のぬくもりとなって、右手から左手へ、僕の脳天へ届いた。窓の外を見ると徐々に霧が晴れて日差しさえ見えてきた。すっかり霧は消えた。僕はアクセルを一杯にふかして目的地へと車を飛ばした。目尻から流れ出た涙が頬を伝わって僕の右腕に落ちた。
また明日からやり直そう!

君に感謝する

僕はなぜ生まれてきた 君はなぜ生まれてきた
君にどれほど 助けられたことか
君に感謝する 生まれてきて良かった

僕はなぜ生きている 君はなぜ生きている
君が困ったとき 君が悩んだとき
君の力になる 生きていて良かった

人はなぜ生まれてきて 人はなぜ死んでゆくの
君がいなければ どんな生き方を
君に感謝する 巡り合えて良かった
(山木康世)