となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

空とぶ小鳥

2010年06月30日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

僕が初めてジェット機なる飛行機に乗ったのは22歳だったと思う。地元札幌の放送局のディレクターに連れられてふきのとうで上京した。
まだ日の昇る前の早朝、札幌駅前JAL営業所に集合、バスにて千歳へ。ディレクターは何かとスチュワーデスに良い顔しておけと多少嫌らしい笑みを浮かべてアドバイスをくれた。今でも駅前にたたずむとあの日の朝のことを鮮明に思い出す。
千歳空港も、まだ滑走路から直接機内へタラップで上った時代である。タラップの先に待ち受ける、未だ見たこともない飛行機内を想像してワクワクした。紺のタイトスカート制服、制帽に身を包んだスチュワーデスが笑顔で迎えてくれた。着席すると皆に湯気の出ている丸く絞られた布のおしぼりが配られた。こんな気遣いが40年ほど前にはあった。
窓の外を見ると離陸準備のエンジンが軽くうなっている。こんなに大きな物体が空中を飛ぶことは間違っている。どうか今日だけは間違わないでください。時間があれば何も空を飛んで行かなくても、高校生の頃の修学旅行のように陸で行ってもかまわないのに…
そんな心の葛藤を吹き飛ばすかのように、轟音とともに千歳を一気に飛び立ちすぐに苫小牧、太平洋上空だ。これが噂の空の旅か!
機内アナウンスがベルト着用解除、禁煙解除を告げる。当時は離陸、着陸時以外は喫煙OKだった。機内にはあちこちで吸い始めた紫煙が朝日に照らされて立ちこめる。皆緊張の糸が切れてホッとしているように見える。何度も乗っているが今でもなじめず、もしやと思うことが脳裏をかすめることが多々ある。
1時間半ほどであっという間に東京だ。

北海道が運営、経営するエアドゥが1998年から千歳、羽田間を飛んでいる。大手2社が生まれたばかりの弱小企業に道を譲らず当初はずいぶん苦戦したようだ。
国民性の違いもあるとは思うのだが、飛行機会社のニュースはいつも経営困難で路線取りやめとか、空港閉鎖など明るいニュースが少ない。現代は時間との勝負の大勢の人が利用するジェット機。せめて機内が明るくなるような音楽とかユニホームとか考えられないものかと作った歌がある。それが「空とぶ小鳥」だ。
なぜか役所の出先機関のように感じる空の旅。9・11以来厳重検査の空の旅は以前ほど気楽で、楽しくなくなった。その昔はゲートで荷物の検査など一切なかった。実にスムーズな空港風景だった。
もっと、もっとサービスだ。「途中雲の中、赤信号で停車です」などジョークの一つもかましてくれ。空の路線バスで良いのだ。必死の覚悟で乗る人だって中にはいるのだ。あまり機械に頼り過ぎず、過剰なアナウンスに頼らず、笑顔で人の手で生き生きとしたエネルギーにあふれた航空会社になってくれ、エアドゥ。

空とぶ小鳥

ジェット機に乗って羽田から 北の街ご案内
水色の制服に身を包んで 中ヒールを履いて
本日はエアドゥをご利用いただき
まことにありがとうございます
しばらくの間のお付き合い 私空とぶ小鳥

離発着の際は電子器機の ご使用はお控えください
飛行中でも揺れることがあります ベルトは軽くおしめおき下さい
ご気分がすぐれ ないお方は
遠慮なさらずに私どもに
申しつけお呼び下さいませ 私空とぶ小鳥

ジュウスはいかがコーヒーは ウーロン茶もございます
短い旅のひとときを どうぞよろしくご一緒に
大きく揺れましても 飛行には
差し支えございませんので
どうぞご安心下さいませ 私空とぶ小鳥

皆さま飛行機は津軽沖 到着まで25分
目的地千歳のお天気は ピカピカの日本晴れ
前方のモニター スクリーンで
NHKの朝のニュースを
イヤホーンは9番ご利用を 私空とぶ小鳥

当機は只今着きました お急ぎのお客さまには
定刻より10分遅れまして 申し訳ございません
又のご剰機を お待ちしてます
長らくのお疲れさんでした
どうぞ今後ともエアドゥーを 私空とぶ小鳥
SEE YOU AGAIN SAYONARA
(山木康世)