テリーズテリー物語
2010年11月05日 | カテゴリー: ミュージック・コラム
2010年7月某日
テリーズテリーが佳境に入っている。外観デザインはすでに確認済みだったが、細かいデザインに関して、昨夜綿密な打ち合わせを行った。山木倶楽部マークの大きさと入れる位置の確認。バックの板に書き入れるダリア「ヴァイオレット・キミ」を2輪、右下に入れることで合意した。かなり好い感じの山木モデルが完成しようとしている。世界に一つしかないデザイン、音のギターが今まさに産声を上げようとしている。無上の喜びである。製作者の中本氏は「すぐに好い音が出るとも何とも言えない。」山木「大丈夫ですよ、僕が当日音を出してみます。」悪いはずがない。中本氏のキャリアと性格と僕のキャリアと性格で、良い音が出ないはずがない。
音は確かにギター本体から出るのであるが、弾き手の如何によって変幻自在する。デザインと外観と昨夜の打ち合わせを見る限り、入魂の音が今にもサウンドホールから鳴り響いてくるような錯覚を覚えた。
60歳還暦記念モデルは終生のギターとなろう。このギターとともに、新たなスタートが切れる幸せ感でいっぱいである。お初のご披露は10月23日東京日経ホールになる予定である。ギブソンB-25は隠居の身というところだろうか。この18年本当に支えてくれ大いに感謝している。今まではB-25とともにあったと言っても言い過ぎではない。90年原宿竹下通りを歩いていて偶然入った楽器屋で見つけたギブソン。1964年のころのモデルだと思う。64年と言えば僕が中学生のころにアメリカで制作されたギターの一本が巡り巡って、日本全国を一緒に旅したわけである。前の持ち主が一人とは限らない。しかし90年から20年はアジアの国、日本の山木康世という音楽人にもらわれたのである。
テリーズテリー山木モデルは、今まさに60歳からの旅を始めようとしている。後ろ板には父が丹精込めて60歳退職から作り始めた山木ダリアの傑作「ヴァイオレット・キミ」が控えて一緒に旅をする。母が亡くなった年の父の新作を、僕がこれから引き継ぎ歌ってゆく。歌い弾くステージの興味も尽きないが、これからどんな歌をこのギターは僕にインスピレーションしてくれるだろうか。心のこもった歌を生きてる限り作って行こうと思っている。
我が子の誕生を今か今かと病院の待合室で待っている感じである。
フォークギターが全世界に何万本あるか知らないが、それぞれに誕生の瞬間があり、誰に弾かれて何年で終わったか、はたまた未だ現役でバリバリ。それぞれにドラマがあるはずだ。10月23日は一本のギターのドラマの初まりである。
2010年10月23日
ついに念願のギターが楽屋に運ばれてきた。見事な美しさ、手に取るのも惜しいほどの輝きを見せている。関係医師3人に付き添われ大事に運ばれてきた。ややグレイがかった頑丈、かつ柔らかいケースを開く。オギャー!丁寧に、大事に首の骨でも折れてはかなわん。しかしこの子供はしっかり首も据わって、どうぞと誘いの手をさしのべてくれた。
チャリーン、チャッチャ、ジャーン、キューン、ピーン…
人前で弾くことに慣れているのに、なぜかこういう場面ではいつも何を弾いたらいいのか躊躇してしまう美原育ちが顔をのぞかせる。
良い、良い、良いですよ、早速ステージで音を出してみましょう!!
かくして花の還暦ステージで見事、大役を果たして船出の一歩となった。
大勢の人がこのギターに魅了されたようで、後日反響が多くあった。うれしい限りである。我が人生における本当の意味での船出をこのギターが飾ってくれた。これからの航海に後悔はなし、有るのは有終の美あるのみ。
年輪を重ねることの大事さと同時に、着古した衣服の整理も大事とつらつら感じ入り今日この頃である。
2010年11月4日
還暦ステージから2週間ほど経ったこの日、完全に我がギターとなった。実はあの日、ステージで披露した後、もう一度最後の点検ということで引き取られて行った我が子。
中野通りに一台の黒塗りのバンが止まっている。中から見慣れた釧路出身のYさんが待望のグレイのケースを小脇に抱えて降りてきた。最高の秋晴れの下、桜の木は紅葉の準備中。そんなさなか5分ほどの経緯で我が手に戻ってきた山木モデル。
事務所で飽きずに眺めては弾いて、写真を撮って、弦を張り替えて、あー高校生のころのときめきと何も変わっていない。モノのあふれかえる時代、本当に両手を挙げてバンザーイと言えるモノは少ない。
さぁ土曜日からの人生行路、強力な我がソルジャーがコンディションを整えている。後は我が身のコンディションとお天気のコンディション。
松本、三島と来られる皆様、もしもギターにも大いに興味がございましたらじっくりと拝見ください。ざっくりと拝聴ください。質問等ございましたら、遠慮なさらずになんなりとお尋ねください。
あなた様の今後の時間を小生と同じモデルを所有なさって人生の楽しみを共有してみませんか?
何はともあれテリー中本氏の真骨頂、みなさん、どうぞご期待ください!!
(山木康世)