となりの電話 山木康世 オフィシャルサイト

誰かが見ている!

2010年04月28日 | カテゴリー: ミュージック・コラム 

昨夜、小型の黒い革バッグを見失った。早朝起きてブログを書いて、二度寝をした。この時点ではまだ何も黒いバッグのことなど思い出してもいない。
起きてハガキの整理、今日は明後日からの長旅に備えて車のメンテナンス、オイル交換とでも行こう、と思って、さてと黒いバッグはどこだったか?
しかし部屋のどこかにあるものと思いこんでいた。さして重大なこととまだ思ってはいない。
S急便より発注のポスター200枚が届きサインを済ませる。昼前まで出かけられなかった訳はこのポスター受け取りがあった。各地へ前もって送るライブ告知ポスターは功を奏して、追加注文となったのである。午前中受け取りの電話を入れておいたのでそれを済ませるのだ。そして済ませた。

さて出かけるか。バッグはと、ないな、どこだ、どこだ? 見当たらない。服の下にでも、物の陰にでも隠れているか。ゴソゴソと探し始める。徐々に不安が、焦りが生じてくる。ない、ない、なーい、ないなーい!ここでにわかにバッグの行方不明が本物となり、所在が分からなくなった。
確か夜に車で出かけて駐車場から自転車で戻ってきた。いったんバックの忘れ物に気がつき車内に取りに戻った。そして前のカゴに入れたまでの記憶がよみがえってきた。
多少雨が降っていたので急いでいた。自転車に鍵をかけて小走りで部屋の中に階段を上った。そして疲れていたのですぐに寝た。ここまでが昨夜の記憶の限界だった。
もしかしたら、もしかしたらである。自転車のカゴである。しかし置き忘れたとしても、翌日の昼近いこの時間まであるだろうか、あるはずがない。火曜日は燃えるゴミ出しの日で、朝の通勤客も大勢通る大通り、中野通りである。そんなことを思いながら階段を急いで小走りに駆け下りた。
水色の自転車のカゴを目指す。建物の陰に見えた自転車。そしてなんと黒いバッグが前のカゴに。あったのだ、信じられない! 多くの人が目撃したであろう小型の黒い革のバッグは健在なり。東京都中野区民のマナーも捨てたモンじゃない。昨日の夜10時半から翌日の11時半まで、実に12時間半よくぞご無事で。すぐに収容して小脇に抱えて階段を走って上った。中を調べたが何もさわられた形跡がなかった。全くの奇跡といっても良い。こんなことがこの時代、この大都会で起こりえるのか。

気を取り直して、足取りも軽く階段を再度下りて駐車場へ向かう。自転車置き場のすぐ近くの町内の掲示板にポスターが貼ってあった。
「誰かが見ている!」歌舞伎役者の隈取りをした男がじっと見つめていた。
(山木康世)